まずは、エゾシカについて書いてみたいと思います。
唐突ですが、かつてこの地にはオオカミがいたことをご存知でしょうか?
エゾオオカミです。
野生の世界では、食う者、食われる者がいてバランスが保たれています。
エゾオオカミは家畜を襲う害獣として賞金がかけられ、徹底的に狩られた他、毒餌をまかれて殺され、絶滅しました。
結果、生態系のバランスが崩れてしまいました。
鹿を捕食するものがいなくなったからです。
一方で、野生動物の生息域はどんどんせまくなりました。
街が広がり、広大な農地や牧場が広がり、リゾート開発や宅地開発が進められ、道路やダムが森や川を分断しています。
その結果、エゾシカも害獣になってしまいました。
農業被害は深刻。交通事故や列車事故、山の木を食い荒らす、高山植物への影響などなど。
結果、ハンターが出て一斉駆除などが行われ、年間で10万頭以上が殺されています。
一方で、北海道の観光のイメージキャラクターのような扱いをされているわけで、皮肉なことだと思います。
私は北海道の野菜や果物、お米が大好きです。ほぼ毎日、道内産のものを食べますし、子供達もそのおかげで元気に育ちました。農家さんには感謝しかありません。
我が家の近くの果樹園でも、いろいろな果物を売っています。それはとても幸せなことです。
だから厳冬期に、食べる物がなくなったシカ達が、果樹の樹皮を食べてしまって無残な姿になった農園を見ると、非常に心が痛みます。
ですが同時に、ズキューンという銃声を聞くと、倒れているシカを見ると、人間を見る怯えた目を思い出すと・・・勝手な言い分ですが、痛いのです。とっても痛い。
子供を身ごもっている母鹿も撃たれます。
仲よさげに寄り添って草や木の葉を食べる姿。穏やかに群れでくつろいでいる姿も見ているせいで、どうしても感情的になってしまいます。
それが、とても身勝手なことだとわかっているのですが。
鹿肉を売り物として提供する動きも活発になっていますね。
それはそれでいいのかもしれません。
ですが、もともとの原因である私たち人間が、自分たちの生活がもたらしたものを忘れて、なかったことにして、鹿を悪者扱いしていては、良い方向へ進めないのではないでしょうか。
必要に迫られた駆除は仕方がないとしても、せめてちゃんと知るべきことを知って、環境を守るための動きに繋げていかないと、オオカミのようなことが再び起こってしまうのではないかと思います。
そしてヒグマです。
北海道以外の人にとってのクマは、やはり遠い存在でしょうか。
北海道で育った人にとっては、姿をみることはなくても身近な動物といえます。
札幌のような大きな都市でも、郊外に行けばヒグマの出没情報の看板はあちこちにありますし、ヒグマが出たから小学校が集団下校になったり、遠足でクマ鈴をリュックにつけていく、なんてこともあります。町内会の回覧板で、近所の家庭菜園の野菜がクマに食べられたから気をつけてなんて書いてあることも。
たとえ近場の山や森であっても、北海道の人なら自然とヒグマへの警戒が身についていると思います。
ですが最近、ヒグマと人の軋轢が大きく話題になることが増えました。
住宅街を歩くヒグマ。ヒグマに追いかけられて負傷した方もいましたし、思いがけないほど人の近くに冬眠の巣穴を作って子育てをしていたクマもいました。
報道の過熱もあり、人もクマも不幸な結果に終わってしまったそれらをどのように思うでしょうか。
怪我を負った方はものすごく怖かったでしょう。日常生活ではありえない恐怖だったと思います。本当に大変なことで、その後回復されたか気になっています。
ヒグマはヒグマで、追い回されたり冬眠穴を突然覗かれてパニックになったゆえの行動でしょう。子グマたちはかわいそうでしたね。
なんとか、こういったことを繰り返さないようにしなければならないと思いつつ、ちょっと気になることもありました。
それはやはり、報道の方向性、世間の騒ぎ方に疑問を感じることが多かったということです。
まずは、メディアにおけるヒグマの扱いです。
ヒグマがいかに凶暴で危険な動物か、あおりたてているように見えるのは私だけでしょうか。
昔あった数件の特殊な襲撃事件などを題材にしたり、動物の一面だけをことさらに強調してセンセーショナルな話題を振りまき、結果、本当のヒグマの姿をゆがめていないでしょうか。
人によって追い詰められた動物にたいして「凶暴」という表現は適切なのでしょうか。
もちろんヒグマに追いかけられた事件や、住宅街をヒグマが歩いていたニュースを聞いてからは、怖いと思う方も増えたと思います。
ヒグマは本能的に、走って逃げるものを見ると追いかける習性があって、こういうことを防ぐには、やはりヒグマのことを正しく知ることが大切なのでしょう。
とにかくヒグマを知ること。人とヒグマの両方を守るにはこれしかないと思います。
そして、どうかお願いです。
危険な動物としての視点だけで、ヒグマを見ないでください。
彼らの見せる様々な表情を、その生き様を、どうか多くの方に知っていただきたいのです。
ですが、ヒグマについて詳しく書くとなると、ここには書ききれないことになります。
そこで、いま起きてる問題について書かれた本を紹介したいと思います。
ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
道内に住む方だけでなく、北海道に興味のある方、特に観光に来る方はぜひ!!
ヒグマは、長く害獣として扱われ、見つけ次第すぐに殺す対応がされてきました。
また、ヒグマを殺すと奨励金がだされていたため、街に出てきた個体だけでなく、山の奥にまでハンターが出向いて、駆除されてきたのです。
春クマ駆除制度という制度までありました。
そして、スキー場やゴルフ場などのリゾート開発、宅地開発などにより生息地が大幅に狭められ、またダムができ、川が作り変えられ、サケやマスが上流まで遡上できなくなり(たとえ遡上できても、川底が産卵できる状態ではないのです)、ヒグマにとっては厳しい状況が今までずっとずっと続いてきました。
現在、春クマ駆除制度がなくなって個体数が増えていますが、今度は人間との軋轢がひどくなっており、今でも年間で800頭以上のクマが撃たれたり、箱わなにかかって殺されています。
一方で、観光客には大人気のヒグマ。
車から降りて写真を撮る人もいれば、一番やってはいけない食べ物を与えることをしてしまう人も。
結果、そのヒグマの多くはやむなく殺されてしまうのですが。
ヒグマは食べたものを忘れないため、人間から食べ物をもらうと、また欲しくて人に近寄り過ぎてしまうのです。
息の根を止めたのはハンターでも、そのヒグマを殺したのは餌を与えた人ということになります。本人は気づいていないのかもしれませんが、ヒグマの命と他人の命を危険に巻き込む、非常に身勝手な行為です。
ヒグマがかわいそう、では済まされない問題です。
他にもいろいろありますが、この本を参考に、特に知っておくべきと思うことを抜粋したいと思います。
ヒグマに出会ってしまったら
・怖くても絶対に走って逃げないこと。本能で追いかけてしまう習性があるので逆効果です。全力で走ると時速50キロ程だそうで、ウサイン ボルトでも敵わないと思います。
・遠くにいるなら静かに立ち去りましょう。近くにいたならとにかく落ち着いてください。追い払おうとして物を投げつけるのは逆効果です。ヒグマも攻撃されていると思って興奮してしまいます。
もし、ヒグマが二本足で立ち上がったとしても、それは攻撃のためではありません。周囲の様子をうかがっているのです。ヒグマの動きをよく見ながら、ゆっくりと静かに立ち去りましょう。
多くの場合は、ヒグマのほうから立ち去ってくれます。
そもそも、音を出して歩くなど、出会わないようにするのが大切ですね。
絶対に絶対にやってはいけないこと
・子グマに近寄ること。車の中にいてもダメです。子グマの近くには必ず母グマがいて非常に危険です。子供を守るために必死になるのは、人間もヒグマも同じです。
母グマは、子グマを逃すために車に体当たりをして時間をかせぐことまでします。
プロの写真家が写した可愛い写真は、望遠レンズで撮ったものです。距離感を間違えてはなりません。
・絶対にダメなのは食べ物をやること。前述しましたが、そのヒグマを殺すことになります。
また付近の住人を危険にさらす行為です。さらに言うなら、ヒグマを守るために努力されている方々の活動を踏みにじることになります。
食べ物の残りやゴミを放置するのも同じことです。絶対にやめてください。
とにかく絶対絶対絶対、クマに餌をやってはなりません!!!!
クマと人を守る最低限のお約束です!!
これからヒグマの姿を見かけることも増えるのでしょうか。
一つ思うのは、とにかく冷静に見ることだと思います。
ヒグマが道路を渡っただけで大騒ぎになったりしますが、そもそもその道路は森を分断して作られていたりするのですから、ヒグマにしてみれば、生活のために渡らざるおえないのでしょう。
私の中では、彼らは森の守り神です。
私たちにとっても欠かせない水源の森。
彼らとともに歩むことは、未来を守ること。
どうか守られますよう、守ることができますように。
→今後、ヒグマの写真集の紹介などもしていこうと思います。