キタキツネの疥癬(かいせん)

ヒグマのページで、人が餌を与えたせいで命を落とすクマがいることを書きましたが、同じように人が餌付けしてしまったために苦しんでいる動物がいます。
キタキツネです。

日本ハムファイターズのマスコットにもなっているキツネ。
キツネダンスが流行っているので、これを機にぜひ知ってほしいです。
フレップ君を見たら思い出してください。

「キツネに餌をあげない!! キツネが死んでしまうから!!!」

できれば球場でフレップ君にも叫んでほしいです。
その病名は「疥癬」(かいせん)と呼ばれる皮膚病です。

ヒゼンダニをいう小さなダニが、皮膚の下にトンネルを作って繁殖し、尻尾や体の毛がどんどん抜けていきます。
皮膚が厚く硬くなってひび割れていき、目の周りに達すると目が開かなくなります。
また激しいかゆみのためにかきむしるので、傷だらけとなって細菌にも感染。やせ衰えて死んでいく様は、本当にひどいものです。
寒さが厳しい北海道では、被毛がない状態では秋に気温が下がった時点で凍えて死んでしまう個体も多いでしょう。
しかも接触感染するので、つがいの間で、または親から子へとうつってしまいます。

どうして皮膚病と餌付けに関係があるかというと、人間の食べ物には油分や塩、糖分や添加物といったものがたくさん入っています。
これがキツネにはきちんと消化できず、下痢を起こし、内臓が弱ってしまうことで抵抗力が落ちてしまうのです。
抵抗力が落ちると発症し、全身へと広がってしまいます。

食べ物をもらって喜ぶ動物を見るのは楽しいかもしれませんが、その行動がその子を苦しめ、死なせてしまうことをぜひ知ってほしいのです。

この写真は初期症状のキツネです。尻尾の毛が抜け始めています。こんな状態のキツネを非常に多く見かけます。
この写真は春に撮ったもの。この子も遅くとも秋には死んでしまうでしょう。

末期の症状のキツネは、あまりの痛々しさに写真を撮ったことがありませんでした。
こうしてブログを作ることになるなら、撮っておくべきだったと反省しています。

数年前、私の家の庭にもよく立ち寄っていたキツネがいました。
庭に生えている松の木が、お気に入りの休憩場所だったのです。
その松は、剪定して形を整えていたため、枝がベッドのようになっていて、器用に木をよじ登って、その枝で横になり気持ちよさそうに昼寝をしていました。
ところが近所に餌をあげる人があらわれ、その人にまとわりついて餌をねだるほどになってしまいました。
そしてやはり、疥癬を発症したのです。
尻尾の毛が抜け始め、しきりに体をひっかくようになり、ゆっくり寝てもいられない状態となってしまった様子は本当にかわいそうでした。

なんとか助けたいとも考えましたが、まずキツネにはエキノコックスの問題があります。
この寄生虫は人が感染すると命に関わるもの。
北海道で育った人なら、子供の頃に必ず「キツネに触ってはいけない」と教えられたことがあるはずです。
とはいえ、このエキノコックスも、もとはといえば人間が毛皮をとるために持ち込んだ道外のキツネから広がってしまったものです。
原因はいつも人間なのがやりきれないですね。
とにかく、リスクを負って、人に慣れていない野生動物を捕まえて薬を投与、被毛を洗浄、しかも治療は二ヶ月ほどもかかるそれは現実的ではありませんでした。

そして、やきもきしているうちにその子は姿を消してしまいました。
その年の秋、散歩先でひどい姿になったキツネに会いました。
全身真っ白に見え、まともな被毛もなく、やせ細った体。針金のようなしっぽ。
同じ個体なのか確証は持てませんでしたが、本当にもう、どうにももう、悲しくて。
そのまま木立の中に消えていく姿を見送りました。
数日後、気温が一気に下がったので、あの子は死んでしまったと思います。

あの子の命を無駄にしないためにも、今一度お願いします。
餌付けはやめてくださいと。
抵抗力が落ちるだけでなく、餌のある場所に複数の個体が集まることで集団感染の恐れもあるのです。
現に、散歩に出るとかなりの確率で疥癬にかかったキツネに会います。
フサフサのしっぽを見るとホッとするくらいです。

また、餌付けに慣れたキツネは、自分で餌を採ることができなくなってしまいます。
本能で狩りをするでしょ、という人がいますが、狩りにも経験や技術が必要です。
どこにどんな獲物がいるのか、また季節によってどんな食べ物があるのか、こぎつねの頃から少しづつ身につけるそれは、餌付けに慣れた個体がすぐに会得できるものではありません。

結果、なんとか餌をもらおうと人間に近寄り、事故にあう子も多いのです。車に前足を潰された子もいました。
また、今回のようにコロナが流行して観光客がいなくなった観光地では、恐らく多くの観光キツネが飢えたでしょう。
かわいそうでは済みません。
野生動物はペットではないのです。
そのことをあのキツネにかわって、今一度訴えたいと思います。