「川底が大事なんです!!」
「川の中の湧き水をご存知ですか?」
「魚道があればいいというものではないんです!!」
ヤマセミのかなちゃんを見送った時に、かなちゃんのためにできる小さな恩返しとして、川の問題をもっと知って、たくさんの人にお伝えしたいと思いました。川の環境が少しでもよくなって欲しいと願うからです。
また、息子や娘が幼い頃に川遊びをさせていた時に比べて、あきらかに魚が減っている川が気になっていたこともあります。
川岸から見ただけではわからない川の中。覗いてみたことはありますか?
私は若い頃、ダイビング用のドライスーツを着て、水中メガネにシュノーケルと足ひれをつけて、どんぶらこっこと、ももたろうの桃のように川に流されてみたことがあります。
季節は秋。そこで遡上してくるサケたちに出会いました。
私は流されていくほうで、サケたちは上っていくほう。次から次へとすれ違うという、なんともせわしない出会いでしたが、その姿を今も鮮明に覚えています。
彼らは長い旅から帰ってきたところでした。
傷だらけになりながら、最後の力を振り絞って川を上っていました。次の世代に命のバトンを渡すために。
サケ、マスだけでなく、多くの魚たちが海と川を行き来し、海と森をつないでいます。
彼らが海の恵みを森へと運び、森やそこに住む生き物たちを育み、再び森の恵みが川を伝って海に注がれるのです。
ですが、今、その姿が失われつつあります。
原因は、ダムです。
水の確保の他に、水害を防ぐという名目で、大中小の数々のダムが作られています。
皆さんがよく知る大きなダムの他に、砂防ダムや治山ダムといった小さなものを含めると、その数は膨大です。
また、流路工といった建造物も盛んに作られています。
ダムの問題というと、多くの方が思い浮かべるのは「ダムがあるから魚が上流に行けない」というようなことではないでしょうか。
それは間違いではないのですが、問題はもっと複雑で深刻なようです。
一見、水がきれいで清流に見える川も、川の中で大変なことが起こっているのです。
それは「河床低下」。
ダムが引き起こしている深刻な問題で、土砂災害や道路の陥没などを招き、川を生き物の住めない、死んだ川に変えてしまいます。また、川と繋がっている海にまで影響を与え、沿岸の磯焼けの一因にもなっているようです。
巨額のお金が動く事業はどうしても色々あって、こういうことを書くと反論する方も多くいらっしゃるかもしれません。
ただ、水を使っている当事者である私たちが、問題を知らないで過ごすことは怖いことだと思います。
まさに生活に直結していることなのですから。
そして必要なダムと、そうでないダムについて、川の環境について、ぜひ一度考えていただきたいのです。
ヤマセミのかなちゃんがいた川も、上流に大小のダムがあります。
何気なくどんどん使っている水ですが、水道代に頭を悩ませても、その水がどこからきているのか意識することはほとんどないのではないでしょうか。
そして、何が起こっているのかも。
まず、かなちゃんの住む川で起こっていることを書きます。これは全国のダムのある川で起こっていることでもあるでしょう。
ダムや堰のない川のほうが少ないですから、皆さんが住んでいる近くの川でも、気がつかないうちに起こっていることだと思います。
かなちゃんの住む川。私が子どもの頃、そこはサケやサクラマスが遡上する素晴らしい川でした。今はウグイの魚影すらあまり見かけません。
このままでは、ヤマセミたちも生きていけなくなるかもしれません。
ダムがせき止めてしまうもの。それは水だけではないのです。
自然の川は、その流れで少しずつ山を削り、下流へと土砂を運んでいます。小学校のときに習ったように思います。上流の石は大きくて角張っていて、下流は丸くて小さいというようなことを。
これをせき止めてしまうとどうなるか。
河床低下。つまり川のなかの砂利などが補給されないまま、どんどん流されてなくなってしまい、川底の岩盤がむきだしになり、さらに削られてどんどん掘り下がっていくのです。
その結果、川と川岸に段差ができ、川岸がどんどん崩れていきます。
これは危険なことです。ちょっとした雨でも川に泥が大量に流れ込み、大雨など降ろうものなら大きな石や木が流され、川のそばの道は陥没の危険性もあります。というより、すでに土砂災害や陥没事故が起こっていますね。
その泥が海に流れ込み、沿岸も泥の海となります。その泥は海底に積もり、海藻やそこに住む生き物たちにまで影響を与えてしまいます。
川岸を補修すればいいと思われるかもしれません。
ですが、すでに川岸はコンクリートで護岸されているのです。
ところがダムがある限り、河床低下が収まることはありません。
根本的な解決にはならないので、やがて基礎がぬけて護岸が壊れ、そのたびに補修工事が繰り返されているのです。
非常に残念なことに、今では自然の川岸というものがあまり見られなくなってしまいました。
また、雨が降ったら川が泥水になるのは当たり前ではないかと思う方もいると思います。
ですが、河床低下が起きていない川では、ここまでのことにはなりません。川岸がなだらかな水辺となっているからです。
さらにそこに豊かな河畔林があれば、たとえ増水して水があふれても、流れが遅くなるために水の破壊力が小さくなるのです。
また水が土に染み込むことができるため。水位も低くなります。増水がおさまればそれ以上被害が広がることもありません。
ところがダムによって河床低下がおきていると、川が常に不安定な状態となり、すぐに泥川と化すのです。
そして、その泥が堆積し、魚の卵や水生昆虫などの生き物に深刻な影響を与えています。
泥とともに問題なのが、この現象によって川の下に流れている地下水が消えてしまうことです。
実は自然の川は、地表を流れる水だけではなく、川底にたくさんの湧き水を抱えているのです。
それがなくなるとはどういうことか。
それは生き物にとって危機的な状況、ということになります。
厳冬期、かなちゃんが魚をとっていた場所がどんなところだったかというと、物語に書いたとおり工事現場だったのですが、それ以外では「魚の集まる場所」でした。
つまり川底から湧き水がでているような場所だったのです。
そこは他よりも水温が高いため、魚たちが越冬していたのです。
また湧き水がある場所は、魚たちにとって欠かせない、大切な産卵の場所でもあります。
テレビなどで、サケが川底の砂利を掘って産卵するのを見たことがある人は多いのではないでしょうか。
あの場面だけを見ると、どんな場所に産卵しているのか少々わかりにくいと思います。
実は親サケは、ちゃんと我が子が育つように、場所を選んで産卵しているのです。
それは「卵が常にきれいな水にさらされる場所」です。常に水が入れ替わることで酸素をもらい、すくすくと育っていくのです。
これは他の魚も同じこと。
生きている川は、まさに母なる川なのです。
ところが、河床低下によって湧き水を失い、そもそも産卵床を作るための砂利も流され川底が丸裸になり、さらにちょっとしたことで泥川となり、その泥が堆積して、卵や小さな生き物たちを窒息させてしまう状況では、川はどんどん死んでいくことになります。
対策として流路工などが作られていますがどうなのでしょう。
私の実家の近くの川は、何年もかけてそういったものが作られたようですが、なにか改善されているのでしょうか。雨が降ると泥川になるのは全く変わっていないように見えるので、疑問に思ってしまいます。
そして作ってしまったダムが無駄になっている場合、撤去することはできるのでしょうか。
大きなダムは無理でも、砂防ダムなどは可能でしょうか。
せめてこれ以上、ダムのようなものを作らないことが大切なのではないでしょうか。
話題を少し変えます。
かつて札幌で「カムバックサーモン運動」という運動がたいへん盛り上がりました。
札幌の中心部を流れる豊平川にサケを呼び戻そうという運動で、多くの方々の努力が実り、サケが戻ってくるようになったのです。
とても素晴らしい事で、今では放流したサケだけではなく、自然産卵のサケも増えているとか。
残念ながら豊平川の上流は、河床低下がひどい有様で、サケもサクラマスも遡上できなくなっていますが、下流では産卵の様子も見られるようです。
上流までのぼって、なおかつ産卵できる状況であれば動物たちにとってもとてもいいことなのに、などと思ってしまいます。
ところが、私も考える「上流にも魚がのぼれるようにしたい」という思いは、状況をよく見て判断しないと、逆に魚を苦しめてしまう結果になることもあるようなのです。
北海道の渡島半島にある厚沢部町(あっさぶちょう)。
そこにある小鶉川(こうずらがわ)の話を聞きました。
この川は、数年前までサケやサクラマスがたくさん上り、自然産卵をしていた素晴らしい川だったそうです。
ところが、町の取り組みで魚道が作られてしまいました。
もっと上流まで魚を上らせようということだったそうで、専門家の指導のもとに行った工事でしたが、結果、その魚道によって河床低下をおこしてしまったのです。
前述したように、河床低下を起こすと、川底の石と湧き水が失われ、魚は産卵することができなくなります。
それまで何の問題もなく行われていた自然の営みに、人間が手を加えたことで台無しにしてしまった、大変残念な例だと思います。
ただ、こういったことから学べることも多いのではないでしょうか。
今後の対応が、よい学びとなるか、残念なまま終わるのかに分かれるのだと思います。
厚沢部町の対応は、その後どのようなことになっているのでしょう。
その後のことは聞いていないので、とても気になっています。
魚道の撤去などは行われたのでしょうか。
こういう問題は、よく対立を生んでしまいますが、環境の回復を優先で進められることを願います。
魚道を撤去しないで管理していくとなると、永続的に管理しなければなりません。河床低下はとまらないからです。それは可能なのでしょうか。
また対策として、さらに何かを作るのだけは絶対に避けるべき事のようです。
魚道の撤去が一番いいのではないでしょうか。
環境問題が注目を浴びている今、自然なままの川は非常に貴重で、町にとって誇れる財産ではないかと思います。
特に子供たちにとっては、そんな環境があることは本当にすばらしいことです。
ぜひとも良い対応がとられることを、かなちゃんと共に願います。
このページは、ずいぶんと文章が長くなってしまいました。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ヤマセミのかなちゃんとの出会いから、今の川を自然のままの川へ近づけるにはどうしたらいいのだろうと夢想します。
カムバックサーモン運動のように、たくさんの人が関心をもって知恵を出し合えば、いい方法が見つかるでしょうか。
気候に変化が起きて、ゲリラ豪雨なども起こる昨今、川の問題を考えることは本当に大切だと思います。