私は、生まれも育ちも北海道の人間です。
北海道のイメージというと「大自然」という方が多いと思います。
非常に、非常に、ひねくれたことを言いますが、私はこの言葉が大嫌いです。
とても安売りをされている「大自然」。
イメージだけの、カタログだけの大自然。本当に大自然は残っているのでしょうか?
大自然を売りにして、自然をどんどん壊していませんか?と問いたくなることも多いからです。
そもそもが、北海道の生態系はすでにバランスを失っているようです。
例えば、エゾシカの問題。ヒグマの問題。その駆除。
北海道では、年間10万頭以上のエゾシカが殺されています。
同じように、年間800頭以上のヒグマも殺されています。
数字を聞くと驚きますが、本当のことです。
こう書くと、ハンターの方々を責めるような声をあげる人がいますが、そうではありません。
私たちの暮らしそのものが、彼らを邪魔者として消しているのです。
これから書くことは、間違っても誰かを責めているのではありません。
ただ、私たちの生活を支える裏側のことが、あまりに知られていないのではないかと思うのです。
例えば、街に出てきた野生動物に対して、「かわいそう」「山に返してあげて」という声をよく聞きます。目の前の命を救いたいと思うのは、当然で大切な感情です。
ですが、その山とはどこのことでしょう。その動物が生きていける場所なのでしょうか。
私たち人間によってどんどん狭められてきた生息域。開発による餌不足。気候変動。
生きていけないから出てきたのではないでしょうか。
そしてエゾシカなら、山に帰っても駆除の対象になるでしょう。
一時同情して、見えなくなればいいというものではないと思うのです。
そして、知らなければならないことの一つに、私たちの生活を支えている一次産業に携わる方々の苦悩があると思います。
エゾシカの食害、トドの漁業被害、海鳥の糞による昆布の被害などなど、たくさんありますが、毎日食べている食事の向こう側にあるものを、どれだけの人が知っているでしょう。
そこでやむなく殺されている命の重さを、どれだけ意識しているでしょう。
厳しい環境で生きるために、そして命のバトンを次の世代に渡すために必死な動物達。
人々の生活を支えている人たち。
本当に心の痛む、難しい問題です。
そして、さらにひねくれたことを言いますが、「自然がいっぱい」の自然とはなんでしょう。
農地を見ても、牧場を見ても、広大な花畑やスキー場などのリゾート施設、きれいに整備された公園。大規模な墓地。果ては農薬を大量に使うゴルフ場のことまで。
人間が開発して占有した場所。限られた生き物しか生きていけない場所でも、そこに緑があれば「自然がいっぱい」「自然と親しむ」「自然に囲まれた」と、自然自然の大安売り。
自然とはなんなのか、考えてしまいます。
特にゴルフ場やスキー場、森を切り開いて作るリゾート施設は、これ以上広がってほしくありません。
ただでさえ山奥へ山奥へ追いやられているヒグマをはじめたくさんの命が、さらに追い詰められていくことになります。
人間にとっても、大切な水源である森を失うのは生活の危機につながることでしょう。
彼らを守ることで森を守り、豊かな水を得て暮らすほうがはるかにいいと私は思います。
もちろん、守るための活動をされている方々のことは本当に尊敬しています。例えばヒグマを人に近づけないように草刈りをしたり、放置された果樹の木を切ったり、ベアドッグ(クマ追い犬)を育てたりといった活動には、私も参加してみたいと思っています。
そしてなにより大切だと思うのは、「かわいそう」だから守るのではなく、守らなければ私たちの暮らしが、子供達の未来が危ないと切実に思うのです。
例え街のど真ん中に住んでいても、バーチャルな世界しか知らない暮らしをしていても、その命はリアルに世界に繋がっているからです。
先に書いた、水源の森の消失や気候変動、食料、資源の話だけではありません。
人間の持つ高度な技術は、その多くを自然界から学んで得たものでしょう。
一つの種が消えるたびに、一つの知恵が消えていく。
生き物がいなくなっても、人間だけは生き残るなどと思うのは、大変愚かなことだと思うのです。
このページの最初に載せた写真はヤチネズミ。
この小さなネズミが生態系の底辺を支えています。
冬季、餌がなくなると生木の皮をかじるため、林業や果樹園では害獣ですが、とても大切な役割を持った生き物でもあります。
今、農園などでこのネズミによる被害を減らすため、巣箱をかけてフクロウを呼び寄せる取り組みが注目を集めています。
ネズミの天敵であるフクロウによって、ヤチネズミの数を調節し、農業被害を防ぎ、フクロウと、ひいてはヤチネズミも守ることができる素晴らしい取り組みだと思います。
こうした生態系全体を考えた取り組みが広がればいいなと思います。
最後に、環境問題はこれからを生きる子どもたちにこそ知ってほしいと思います。
生き物にはそれぞれの役割があるのだということを、小さい頃からお話できたらいいなと。
例えばクワガタ虫などを捕まえて、もし持って帰るとしたら、責任をもってお世話できる数にとどめ、夏が終わる前に森に帰してあげることを、お子さんと一緒に行っていただけたらと思います。
そうすることで来年また、そのクワガタ虫の子どもたちに会えるのだということ、森の生き物はみんな繋がって生きているのだということを体験として知ることができたらいいなと。
命への責任。それを身につけることは、これからの時代にはとても大切なことではないでしょうか。